日本中央競馬会が栗東トレセンへの新素材馬場導入を発表

2008年4月1日

※本文はエイプリルフールのボツネタです。

日本中央競馬会が本日0時過ぎに栗東トレーニングセンターで緊急会見を開くと聞き、当社もスクランブルを掛け、急ぎ会見場へと駆け付けた。会見に先立って配られたペーパーによると、「栗東トレーニングセンター坂路コースへの新馬場素材導入」に関する会見らしい。これには寝ぼけ眼の記者達も一様に驚きの表情を見せた。「予算の申請はするが着工は来年度」という大方の読みが外れたからというのもあるが、何もこんな夜更けに会見を開く必要はないのではないか、と思ったからである。ざわめきが一巡したところで、同会新馬場素材担当顧問の肩書きを持ち、凛とした表情と赤毛でやや広めの額が特徴的な江戸縁(えどべり)女史が席に付き、導入の経緯を語り始めた。

『新馬場素材の導入は噂されていたように来年度を予定していたが、美浦で目覚ましい成果を上げた事による栗東側の反発が思いの外強く、早期導入を受け入れなければ直ちにストライキを決行するとの通告が労組からあった。在栗労組は先頃「天命により使途不明金を廃する労働組合(通称天使廃労)」の元に一本化し、極めて強大な力を得ている。本会と厩務員、調教助手は直接の雇用関係にはないが、事態を重く受け止め、新馬場素材導入の前倒しを決定するに至り、緊急に会見を開かせて頂いた次第である。』

担当顧問の重厚な語り口が事の重大さに拍車を掛ける。新規顧客を獲得すべく精力的に動いている同会としては、そっぽを向かれかねないストライキは是が非でも避けたいが故の決断か。ニューポリトラックを美浦へ導入してまだ一夏も越していないが、それ以前からテストを行っていた事を思えば、導入を前倒ししてもそれ程支障はないかもしれない。と、自分の中で納得しかけていたその刹那、担当顧問がなにやらおかしな事を言いだした。導入する新馬場素材はニューポリトラックではないと言うのだ。

『管理コストの引き下げ、故障率の軽減に成功したニューポリトラックは素晴らしい素材である。しかし、これは必ずしも永久不変ではない。技術は進歩し、素材は更新される。その度に他国が開発した素材を受け入れていては後手を掴まされる事は必定。故に我々は自らの手で世界のスタンダードを創造すべく秘密裏に計画を進めてきた。ニューポリトラックの利点を継承しつつ、現時点での馬場素材の限界性能の達成を目指して開発された高性能馬場素材、それがポリトラックF91である!!』

ニューの次がF91。何かの劇場版の様な展開に度肝を抜かれた記者達。中には「エンジェル・ハイロゥはVガッ・・・」と何か言いたげな者もいたが、いつのまにやらクマと化していた。混沌とする会場内を余所に、担当顧問は淡々と話を続ける。

『ポリトラックF91の利点については枚挙に遑がないので端折るが、強いて欠点を挙げるならばその高い機動性にある。速度に比例して増加する脚元への負担はMCA(Magical girl lyriCal nanohA)構造等々により従来より軽くなっている。しかし、広い馬場を少頭数で走る競馬場ならまだしも、多頭数がひしめき合う調教で速度が出過ぎては危険極まりない。例えるなら、多数の遅刻寸前の女子高生がトーストをくわえ、ある角目掛け全力疾走で殺到すれば、妄想逞しい諸君にもフラグが立つ可能性がある、つまりはそういうことだ。

かと言って速度を落としては心肺、身体への適切な負荷が得られない。だからこそ導入場所に平地ではなく坂路を選んだ。私の計算によれば、勾配率を平均8%に引き上げれば時計が現在と同じ水準になる。高低差は現行の倍の64m。その昔、エスプリデュノールでジャパンCに参戦したG.ムーア騎手が、坂路建設中の栗東を訪れた際に残した「栗東坂路は5~15年毎に倍になる」という言葉が思い出される。美浦でこの高さを盛り土で造成しようものなら、裏手の民家の洗濯物が乾かないだろう。でも栗東なら・・・と言いたいところだが、流石の栗東でも幅員が極端に狭くなるのでは使い物にならない。しかし、幸いにして我が国には十分な実績を誇る高架の技術がある。先日、グリーングラスが晩年を過ごした佐賀県神埼郡脊振村(現神埼市背振町)から北へ10km程の所にある福岡・佐賀の県境三瀬峠の福岡側に建設中のループ橋を視察して、60m級の長大な橋脚についても確信を得た。来るべき宇宙世紀にはマスドライバーの礎となろうぞ。』

そうそう、魔法少女がトーストくわえてムーアの法則で宇宙世紀にマスドライバーだな、と理解するしかないと本能が囁きかける。思わず「電波な・・・」と口に出そうものなら即刻クマである。ウマではなくクマである事が、競馬で飯を食う者にとってどれ程屈辱的であるかは言うまでもない。

えも言われぬ緊張感の中、会見は質疑応答の段になった。進行役が「質問のある方は挙手をお願いします」と言い終わるか終わらないかのタイミングで手を挙げた人柱、もとい勇者がいた。名は藻与本。この世界に飛び込んでまだ日は浅いが、競馬に対する知識レベルは当社推定48と非常に高く、何より"棺桶を引きずってでも突き進む"と形容されるアグレッシブさに定評がある。その彼が手を挙げた。魔法少女か、トーストか、それともムーアの法則、宇宙世紀、マスドライバーか、はたまた根本的にF91か。周囲からは期待と不安が入り交じった、複雑で熱い視線が注がれ、息を呑む。

『工事竣工はいつ頃ですか?』

ズコーッと一斉に椅子から転げ落ちる人々。流石は関西圏、このような状況でも体が反応する悲しい性。天を仰ぎながら、藻与本が2つの棺桶を引きずらなくて済んだ事に少しホッとした。各々が椅子を定位置に戻していると、それまで鉄仮面の様に無表情だった担当顧問が「良い質問だ」とほんの少しだけ口角を上げてこう答えた。

『竣工は晩秋。大々的に完成記念式典を執り行うので是非参列して頂きたい。尚、当日は森口博子さんにライブをお願いしたかったが、どうしても映画「新博多っ子純情(原作長谷川法世)」の撮影の都合上スケジュールが合わないそうで残念ながら叶わなかった。代わりと言っては失礼だが、以前Gの方で仕事を共にした事のある山口勝平氏を予定しているので期待されたい。曲は言うまでもなく・・・

"今夜はエイプリルフール"